わたし、退職します

「辞めさせて下さい」ではなく、「退職します」という言葉がなにげなく出た。

恐らく、この言葉の違いを理解できるのは、ある程度の期間を働いて、退職という行為をした者しか感じ得ないだろう。

少なくとも10年以上働いた会社での退職であった。

大学時代に、とりえず安定して給与が良い会社。しかも他からみれば、見栄えが良い会社。みんなから「すごいね」と言われる会社。そんな基準で選んで就職活動を行って入った会社だった。実際、超有名企業のブランド力は、経験したものでしかわからない程のものだった。

ただ、大学卒業以来を思い出してみると、10年働いていながら、実際仕事らしい仕事をしたのは、最後4年程しかない。それまでは、給与をもらいながら、その金を使って遊ぶこと、どうにか楽することしか考えてなかった。それなのに、最初は「あいつら、馬鹿じゃね?」「こんなの無駄じゃん」「給与安いのにこんなに拘束しやがって」とか「こき使いやがって」位しか思ってなかった。それと同時に、会社や上司は何かあれば助けてくれる。困った顔をすればなんとかなる、そんな事も思っていた。

生活も荒れていた。二度の結婚を繰り返し、借金も日常生活の中に普通に存在し、女の身体だけ追いかけていた。その時の職場環境や上司がでは悪かったのか、と今考えると違う気がする。根本的に自分自身が腐っていたのだと思う。

そんな中、たまたま自宅療養になり1カ月の時間をもらえて今まで流されるように生きていた中で考える時間があった事、そしてその後の元上司との出会いがたまたま「人生」を変えてくれたのだと思う。その時点では、外資系に入社しても1カ月で首になる可能性も十分あり得ると思っていた。正直、働いていける自信なんてなかった、5年働ければ御の字だとも思っていた。そんな心境の中での転職でも、全く後悔はなかった。

同時に、遊んだことにも後悔はなかった。おおよそではあるが、既にその頃には夜の街で少なくとも3千万円位は使っていたと思う。もう遊ばなくてもいいやという位の気持ちになっていたし、まだそんな歳でもないのに少々のことでは興奮しない身体になってしまっていた。

そして、有給休暇も消化せずに退職日を迎えることとなったが、何もこみ上げるものはなかった。